(前略)
 今回のメインテーマはアニメです。それも、ちょっと深刻なアニメに関する話について真面目に書くことにします。
 いま、アニメが殺されようとしています。
 殺そうとしているのは、テレビ東京です。
 2年くらい前からでしょうか。テレビ東京がアニメの内容に関して、独自の基準を制作側に押しつけてくるようになったのは。例のポケモン騒動の前後あたりからです。子供たちがばたばた倒れたあれです。
 押しつけてくる基準は以下のようなものです。あるアニメについて、制作側に伝えられた制限の数々のほんの一部を紹介します。
 ・女性キャラはへそをだしてはいけない。
 ・高校生以上のキャラは生足(太股から下)をだしてはいけない。
 ・もちろん、パンチラはすべてだめ。下着が見えなくても足の下から上へとなめていく演出はだめ。
 ・上から下へのパンで太股の位置で止まるものもだめ。
 ・高校生のキスシーンは禁止。入浴シーンなどは問題外。裸はシルエットで隠すこと。
 ・道交法違反のシーンはだめ。授業中に罰として生徒を廊下に立たせることもいけない。うんちネタなどスカトロは絶対にだめ。
 めちゃくちゃです。テレビ東京ではワカメちゃんのでてくる「サザエさん」も、ウランちゃんがでてくる「鉄腕アトム」も、うんちくんのでてくる「ドクタースランプ」もつくることはできません。みんな前述の基準にひっかかります。「GTO」なんて論外ですね。いえ、それどころか、NHK教育で放送されている「コレクター・ユイ」もコレクター・はるなの衣装が基準に抵触するので放送できなくなります。ユイの変身シーンもかなり問題になりそうです。信じられないでしょ。NHK教育よりも不条理な制作基準って。でも、本当にこれは存在するのです。
 何人かの有名アニメ監督がこの基準に異を唱え、テレビ東京でのアニメ制作を断念するという事態が起きています。放送途中で監督を降りた人もいます。当然でしょう。これは映像作家の創造力に対する不遜な挑戦です。まともなクリエイターであれば、間違いなく受け入れを拒否します。
 テレビ東京は、アニメを作品とは思っていないのです。そうでなくては、こんな基準を押しつけるようなことはありえません。かれらにとってアニメは放送時間を埋めるための単なる材料なのです。ある時間帯に、何か番組らしきものがあれば、それでいいのです。世界に通じる文化としてのアニメという意識は、かけらもありません。だから、編成もでたらめです。見せる相手のことなどどうでもいいのです。
 わたしは、アニメを無制限につくらせるのがよいとは思っていません。午後5時、6時台に放送する、子供を視聴対象とした作品には、それにふさわしい基準があっていいと思います。テレビ東京だって、そんな時間に「ミニスカポリス」を放送したりはしません。当り前のことです。にもかかわらず、テレビ東京は夕方の時間帯に「彼氏彼女の事情」や「少女革命ウテナ」を放送します。その一方で、深夜時間帯に「宇宙海賊ミトの大冒険」を放送します。これ、どういうことでしょう。表現には理不尽な制限を加えるが、内容そのものには何も頓着しない。誰に何を見せるかなんてかけらも考えていない。そういうことになります。実にもう驚いたテレビ局です。
 おもしろい一例を挙げましょう。「ミクロマン」という子供向けのアニメがあります。このエンディングの背景に「宇宙」という文字がでてきます。その「宙」が間違って書かれています。わたしは最初の放映のときに気がつきました。しかし、これがいつまで経っても修正されないのです(9月27日放送ぶんでは、まだそのままでした)。明らかな誤字をいつまでも流して子供に見せつづける。こういうことの弊害をテレビ東京の人は何も気にしていません。気になるのは、ただひたすら目立つ表現だけなのです。杜撰かつ鈍感。これでは、そう言わざるをえません。
 わたしはテレビ東京が早くこの過ちを認め、軌道を修正することを強く願っています。日本のアニメの発展に、テレビ東京は大きな役割を果たしてきました。この功績をみずから汚す行為は、急ぎやめるべきです。せっかく深夜時間帯という貴重なアニメ枠もできたのです。それを生かし、クリエイターが納得する、時間帯ごとの適正な基準を設け、作品を作品として真摯に評価していく姿勢をぜひ取り戻していただきたいと思っています。アニメを愛する人は、このことをはっきりとテレビ東京に申し入れましょう。このままでは、一テレビ局の不可解な方針により、アニメが殺されてしまいます。大袈裟ではありません。本当です。看過してはいけないのです。

 月刊ASCII連載エッセイ「高千穂遙の大混戦 かかってきなさい!」1999年12月号掲載。
 (c) Takachiho Haruka 禁転載。



TV-Watch